2024年末、日本に住む外国人の数が過去最多の376万8,000人を超えました。しかしその一方で、言語や文化の壁、保証人の問題などから外国籍の方の住まい確保には高いハードルがあるのも事実です。こうした課題に取り組むため、株式会社グローバルトラストネットワークス(以下、GTN社)では、外国人の日本での暮らしを支える事業を、住まい・就労・通信・金融など多角的に展開しています。
総合不動産会社として海外でのビジネス展開や外国人との共創を見据えるオープンハウスグループは、GTN社と共同で外国人の住まい問題に関する周知・啓発するキャンペーンを実施しました。このキャンペーンでは、日本に居住経験のある外国籍の方を対象にアンケート調査を行い、実際の声を収集するとともに、挑戦する人や組織を応援する「O-EN HOUSE PROJECT」の一環として実施しました。
本記事では、GTN社の執行役員である馬場勇さんと、日本での住まい探しを経験したOlafsdottir Dagmarさんを取材。住まい探しのハードルをどのように乗り越え、クリアするためにどのような努力をしたのか、お二人の声をお伝えします。
(2025年9月に取材)
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馬場 勇
株式会社グローバルトラストネットワークス 執行役員。同社の保証事業部副事業部長 兼 グローバル保証営業部部長として、外国人の住まい問題に取り組んでいる。
株式会社グローバルトラストネットワークス 執行役員。同社の保証事業部副事業部長 兼 グローバル保証営業部部長として、外国人の住まい問題に取り組んでいる。
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Olafsdottir Dagmar(オラフスドッチー・ダグマー)
アイスランド出身。国費留学生として2024年10月に来日し、東京大学で土木・環境工学を研究している。
アイスランド出身。国費留学生として2024年10月に来日し、東京大学で土木・環境工学を研究している。
「住みたい」の前に立ちはだかる見えない壁──当事者が語る日本での住まい探し
アイスランドの大学で土木・環境工学を研究していたOlafsdottir Dagmarさんは、2024年10月に来日し、国費留学生として東京大学に入学しました。現在は、自然や水、海を清潔に保つための研究に力を注いでいます。
「私の専門分野では、アジア諸国が先進的な研究をリードしており、教授の勧めもあって留学を決めました。留学先に日本を選んだのは、アイスランドとの共通点が多いからです。どちらも島国で火山活動が活発ですし、自然を大切にする文化があります。宮崎駿監督の映画も、人と自然の関係をテーマにした作品が多いですよね。こうした点に惹かれ、ぜひ日本で研究活動を行いたいと思いました」
来日当初はシェアハウスで暮らしていたDagmarさんですが、よりくつろげる住環境を求めて一人暮らしを決意。その際、直面したのが、外国人の住まい探しをめぐるさまざまな障壁でした。
「私は日本語があまり話せないため、英語対応できる不動産会社を探さなければならず大変でした。その上、賃貸契約のルールもアイスランドとはまったく違って戸惑いました。まず、アイスランドでは不動産オーナーと直接やりとりするため、不動産会社を仲介する必要がありません。礼金、保証人制度もないので、大きなギャップを感じました。しかも、インターネットで日本の賃貸制度や外国人の住まいについて調べると、情報が多すぎて、必要な情報をなかなか見つけられなかったのです。アイスランドにいたころから、日本での住まい探しは難しく、独特のルールがあると聞いていましたが、予想以上に複雑でした」

実際、今回の啓発キャンペーンでオープンハウスグループとGTN社が共同で行ったアンケート調査でも、日本の住まい探しにおいて、物件情報の入手や契約内容の理解に困難を感じたという回答は多く見られました。
GTN社は、2006年の創業以来、こうした外国人の住まい問題に取り組んできました。外国籍の方から寄せられる住まいの相談は、なんと年間20万件以上。1日あたりおよそ500~600件という頻度で、支援が必要な現場と向き合い続けています。馬場さんは、同社の理念を次のように語ります。
「GTN社では、“外国人が日本に来てよかったをカタチに”することを目指し、事業を展開しています。外国人が日本で暮らす上での主な課題は、住まい、通信、仕事、金融、教育です。中でも、生活の基盤となるのが住まいです。そこで、住まい探しから家賃保証まで、幅広いサービスを提供しています」
Dagmarさんも、GTN社のサービスに助けられた外国人の一人です。GTN社では、外国人が入居できる部屋をフィルタリングした上で物件情報を提供しているので、外国籍を理由に入居を断られることはありません。煩雑な申し込み手続きもスタッフが代行するため、住みたい部屋を選ぶだけという手軽さだったそうです。
「外国人にとって、慣れない日本で自分の居場所を見つけることは、体と心どちらにとっても重要です。今の住まいの近くには、緑あふれる公園や神社があり、故郷のアイスランドのように自然豊か。お気に入りのレストランや市場、下町のようなコミュニティもあって、私のライフスタイルに合っています。住環境を整えることで、研究にも集中できるようになりました」
外国人との共生社会実現を阻む社会課題解決に向けた挑戦
外国人との共生社会の実現を掲げ、約20年間にわたって挑戦を続けてきたGTN社。その背景には、創業者である後藤裕幸社長の強い思いがありました。かつて後藤さんは、家探しに困っている外国籍の友人約20名の保証人をしていたそうです。その経験から、保証人がいなくても外国人が住まいを確保できるよう、GTN社を立ち上げました。
「2006年当時、日本政府はグローバル戦略の一環として、将来的に留学生の受け入れを拡大する方針を模索しており、その流れの中で2008年には『留学生30万人計画』が打ち出されました。そのような方針でありながら、現実には外国籍を理由に賃貸物件の入居を断られるケースが多発していたそうです。GTN社がスタートしたのは、こうした社会を変えるためでした。外国人のためのサービスではありますが、外国人が日本で活躍すれば、日本社会の国際化にもつながります。外国人向けの事業にビジネスチャンスを感じ、収益性を見込んで進出する企業様も多いですが、私たちのミッションはあくまでも社会課題の解決。その思いは今もブレることはありません」
馬場さん自身も、外国人との共生に関心を抱いていました。それは、幼いころ、外国人と身近に接していたことが原体験になっているからだそうです。

「私の親は海外で仕事をしていたため、私が子どものころから父の同僚や部下が自宅に出入りしており、肌の色も言葉も違う人たちと当たり前のように接してきました。ですが、社会に出ると、外国籍の方への差別や偏見が根強くあると気付いたんです。『このギャップは何だろう』と関心を持つようになりました」
やがて、日本人向けの家賃保証会社で働き始めた馬場さんは、外国人入居者の家賃保証サービス事業を社内で立ち上げることに。立ち上げに奔走する中で、ただ家賃を保証するだけでは外国人の暮らしは立ち行かず、住まい探しから家賃を継続的に支払うための就労支援や生活サポートまで、幅広くカバーしなければならないことに気付きました。そんな中、馬場さんが出会ったのが創業まもないGTN社でした。
「当時は、不動産会社を回っても『外国人は無理』と塩をまかれるように追い返された時代です。物件情報に『外国人お断り』と書かれているケースも非常に多かったですね。外国人からすると、人として扱われていないように感じとてもつらいはず。『何とかせねば』という思いがGTN社の理念とシンクロし、『GTN社でこの社会課題に取り組もう』と腹をくくって入社を決めました」
取材中、ポツリと「目の前に困っている人がいたら、助けるのは当たり前じゃないですか」と語った馬場さん。この利他の心が、強い原動力になっているようです。
「外国人お断り」物件については、今回のアンケート調査でも「国籍ではなく一人の人間として判断してほしい」(フィリピン)、「外国籍であることを理由に一律に判断するのではなく、日本での居住歴や学歴、雇用形態などを考慮して、個別に判断してほしい」(米国)などの回答があったように、外国籍を理由に入居を断られるケースは現在もあるといいます。
「当社の外国人スタッフも、外国籍というだけでバイアスのかかった見られ方をすることがあるそうです。そう聞けば、何か力になれることはないかという気持ちが湧いてきますよね。同じ地球人ですから、助け合うのが当たり前。そんな思いが根底にあるので、何があろうと心が折れることはありません」
住まいから始まる共生社会──日本と世界のより良い未来へ
少子高齢化が進み、労働人口が減少するこれからの日本を支えるには、デジタル化やAI、高齢者、女性の活躍に加えて、外国人の力が欠かせません。「外国人の住まい問題の解決は、共生社会への第一歩」──馬場さんはそう考え、この問題に取り組んでいるそうです。
「外国人の住まい問題は、遠い誰かの話ではなく、未来の日本に関わることです。日本で働くにせよ学ぶにせよ、すべてのスタートは住まい探しから。Dagmarさんのように挑戦心あふれる外国人の方のために、私たちは何ができるのか。そして、外国人と共生・共創することで、私たちにどんなプラスの効果が生じるのか。こうした点を意識して、これからも挑戦を続けていきたいと思います」
これからの共生社会実現には何が必要でしょうか。「日本で誰もが安心して暮らせる社会を実現するために、日本社会全体に必要な意識改革や行動は何だと思いますか?」というアンケート調査の設問には、「多様な背景や価値観を持つ人を『例外』ではなく『当たり前』として受け入れる意識と行動が日本社会に定着してほしい」(中国)という要望が寄せられています。また、Dagmarさんも、次に続く外国人がよりスムーズに住まい探しができるよう、次のように提言します。
「日本で住まいを探す外国人は、言葉が通じないことに不安を感じています。不動産会社に英語が話せるスタッフがいなくても、翻訳アプリなどを使って少しでもコミュニケーションを試みてもらえたらうれしいです。そして、一歩踏み出して外国人を受け入れようという気持ちを持っていただけたら、お互いにとって良い結果が生まれるのではないかと思います」
こうした社会課題を周知するためにも、オープンハウスグループとともに取り組んだ今回の啓発キャンペーンには大きな意義があったと馬場さんは語ります。
「私たちも啓発活動に取り組んでいますが、オープンハウスグループと共同でキャンペーンを行ったことで、物件オーナーや不動産会社など、より幅広い層にリーチできたと感じています。これからも外国人や企業各社、行政とともに、共生社会の実現に向けて挑戦していきたいです」
GTN社ホームページ: https://www.gtn.co.jp/
GTN社オウンドメディア「GTN WOW」: https://wow.gtn.co.jp/

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