2025年11月、日本有数の温泉地・箱根にグランドオープンした「KÚON 箱根強羅」。同ホテルは、オープンハウスグループが初めて手がける直営のホテルです。築15年のホテルを買い取り、リノベーションによって、唯一無二の空間へと生まれ変わらせる本プロジェクトは、箱根という歴史と文化を受け継ぐ土地に新たな人の流れを生み出し、地域全体の魅力を未来へとつないでいくための一つの挑戦でもあります。
今回は、設計・デザインを手がけたnegu inc.の代表・永井健太さんと、「KÚON 箱根強羅」の代表で、株式会社オープンハウス・ホテルズ&リゾーツ代表取締役社長の渡部達也が対談。試行錯誤を重ねながら、お互いの挑戦を支え合い、一つの場所をつくり上げていった二人は、どのような想いを胸にこのプロジェクトを進めていったのでしょうか。
オープンハウスの「挑戦する人や組織を応援したい」という理念と、永井さんがキャリアを通じて大切にしてきた「空間の価値をつくることで、地域に新しい価値を生み出したい」という姿勢。その共鳴を起点に、コンセプトを生かした空間デザインや体験の創出、本プロジェクトにおける「挑戦」について、二人三脚で取り組んだ過程を振り返りながら語り合いました。
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永井 健太
negu inc.代表
1984年、東京都生まれ。桑沢デザイン研究所、ViewportStudio、SUPPOSE DESIGN OFFICEを経て、2024年にnegu inc.を設立。東京・渋谷区本町にあるポップアップスペース・nakayaの代表も務める。身体性や人間の感覚といった普遍的な価値観と、その時代や文化といった背景を大切にし、シンプルに構成することで、永く愛される空間をつくりだすことを目指している。negu inc.代表
1984年、東京都生まれ。桑沢デザイン研究所、ViewportStudio、SUPPOSE DESIGN OFFICEを経て、2024年にnegu inc.を設立。東京・渋谷区本町にあるポップアップスペース・nakayaの代表も務める。身体性や人間の感覚といった普遍的な価値観と、その時代や文化といった背景を大切にし、シンプルに構成することで、永く愛される空間をつくりだすことを目指している。 -
渡部 達也
株式会社オープンハウス・ホテルズ&リゾーツ 代表取締役社長。1994年、福島県生まれ。星野リゾートにて約10年間、料飲部門からフロント、宿泊施設の運営、組織開発まで幅広く経験。新築ホテルの開業にも複数携わり、サービスの最前線の視点と経営視点を組み合わせたマネジメントを強みとする。2024年にオープンハウスグループに参画後、閉業したホテルを活用した新規事業の検証・立ち上げを手掛ける。
株式会社オープンハウス・ホテルズ&リゾーツ 代表取締役社長。1994年、福島県生まれ。星野リゾートにて約10年間、料飲部門からフロント、宿泊施設の運営、組織開発まで幅広く経験。新築ホテルの開業にも複数携わり、サービスの最前線の視点と経営視点を組み合わせたマネジメントを強みとする。2024年にオープンハウスグループに参画後、閉業したホテルを活用した新規事業の検証・立ち上げを手掛ける。
「誰にとってのハッピーか?」がデザインを生み出す根源
ーまずは、永井さんのキャリアやデザインに対する想いなどについて伺います。なぜ空間デザインの仕事に就いたのでしょうか。
永井:桑沢デザイン研究所でデザインの基礎を幅広く学び、「デザインとは表面的なものではなく、社会や文化をつなぐものだ」と教わりました。それで、デザインの中でもより社会や文化に深く関われる建築の分野を志すことに決めたんです。日本の文化を知るには海外から日本を見るべきだと思い、イギリスのViewportStudioというデザイン事務所で2年ほど働き、帰国後は建築設計事務所・SUPPOSE DESIGN OFFICEでさまざまな空間デザインに携わりました。
SUPPOSE DESIGN OFFICEは、「社員+社会の食堂」をコンセプトに事務所内の食堂を広く地域にも開放しているユニークな事務所です。ここでの経験から、建物と地域とのつながりについて考えるようになりました。
ー2020年に独立し、2024年にはnegu inc.を立ち上げられています。独立と会社設立の背景には、どんな想いがあったのでしょうか。
永井:コロナ禍で世の中が混乱している中、どこか自分自身は他人事のような感覚がありました。本来、デザインは社会や文化をつなぐもの。それにもかかわらず、会社に守られた立場にいる自分は「社会と本当につながれているのだろうか?」と、疑問を抱いたんです。もともと独立志向が強かったわけではありませんが、自分自身の力で社会と向き合い、つながろうと考えた末に、独立を決意しました。
ー抽象的なコンセプトを形にしていくお仕事ですが、日々どのようなことを大切にして取り組んでいますか?
永井:何よりも意識しているのは「誰のハッピーなのか」を忘れないこと。デザインの良し悪しとプロジェクトの成功は必ずしもイコールではないんです。僕らが考える「良いデザイン」が、施主さんや空間を使う人が求めるものとズレていては意味がありません。ですから、プロジェクトにおける成功を理解しながら、より良いデザインを生み出していく。そのバランスが非常に重要です。
ーこれまで手がけた空間デザインの中で、特に思い入れのあるものは何ですか?
永井:独立して3年後に内装を担当した、時計専門店「ASKWATCH Shinjuku」でしょうか。古いテナントビル内の店舗を改装したのですが、老朽化したコンクリートに金継ぎなどを施して活用した点などを評価いただき、ドイツのアワードである「German Design Award 2023」で最優秀賞を受賞しました。これまで、デザインに自信はあったものの、会社の名前があるから評価を受けていたのかもしれない……と疑う気持ちがあったんです。でも、賞をいただいたことで「自分がつくったもの」を認めてもらえた実感を得て、自信がつきました。

既存の箱根から距離を置いたコンセプトから生まれた「ティーラウンジ」
ー今回、「KÚON 箱根強羅」のデザインをnegu inc.に依頼した経緯を教えてください。
渡部:オープンハウスはNOT A HOTEL社と共同で「NOT A HOTEL MINAKAMI」という別荘を開発したのですが、その設計・デザインを手がけているのが、永井さんが以前所属されていたSUPPOSE DESIGN OFFICEなんです。そのつながりでnegu inc.をご紹介いただきました。negu inc.がこれまで手がけてきた物件などを拝見したところ、「KÚON 箱根強羅」で体現しようとしていることとの親和性を感じて。きっと一緒にいいホテルをつくれるだろうと考え、依頼しました。
ー永井さんは、依頼を受けてどう感じましたか?
永井:お声がけいただいた瞬間に、「絶対にやらせてください」と即答しました。人が住宅以外で、最も長く時間を過ごす場所はホテルですよね。旅行においても、ホテルで過ごした記憶は強く残ります。そういった意味で、ホテルのプロジェクトは空間デザインを生業とする者として非常に魅力的なんです。
ーどんなホテルを目指して、空間づくりをしていったのでしょうか?
渡部:箱根での宿泊と聞くと、畳のある和室に泊まって、温泉に入って、和食を食べる……という王道の温泉旅館のイメージを持つのではないでしょうか。けれど、「KÚON 箱根強羅」はそうした従来のイメージには当てはまらない場所を目指したかった。それで、「きのうより少し、大人になれる場所」というコンセプトを掲げ、今まであまり箱根に足を運んでいないような若い層をターゲットに据えて、空間づくりをしていきました。
永井:具体的なデザインについては、渡部さんと対話を重ねながら一つずつ形にしていきました。渡部さんはしょっちゅう僕らの事務所へ足を運び、自ら骨董店をまわってインテリアを探し、一緒にエントランスに置く石を山へ採掘しに行き……と、「こんなにも施主が関与してくれるんだ」と驚くほどに、積極的に関わってくださいました。
渡部:永井さんをはじめ、事務所のみなさんが本気でコミットしてくださっていたので、ドライな姿勢ではいたくありませんでした。
プロジェクトを進める中で、コンセプトを象徴する場所として生まれたのが、ティーラウンジ。「オリエンタル」というキーワードと、「きのうより少し、大人になれる場所」というコンセプトを体現する場所としてお茶と和菓子を味わうティーラウンジがあるのが、「KÚON 箱根強羅」の大きな特徴です。


永井:もともと大浴場があった場所に設けたのですが、当初は、僕らからサウナにしようかという案を出していて。でも、渡部さんからティーラウンジの案をいただいて、すごくしっくりきたんです。
渡部さんはとてもロジカルに考える人。「なんとなくいい」と思えるものでも、「なぜいいのか?」を常に言語化しようとされていました。今回はもともとあった建物をリノベーションしてつくるということで、建物のポテンシャルを生かしながら、インテリアなどの「モノ」に重きを置いて空間をつくり上げていったのですが、その過程でも「なぜこれなのか」を一つひとつ言語化し、対話していきました。
渡部:エントランスに置く「石」一つとっても、何度も対話を重ねましたよね。そこで気をつけていたのは、私たちがつくっているのは単なる空間ではなく、あくまで「ホテル」であるということ。ホテルの中に空間があるのだという視点を持つと、そこで提供したいサービスとのバランスを取ることの重要性が見えてくるんです。だからこそ、それぞれのデザインにどんな意図があるのかを明らかにするべきだと考えていました。

永井:椅子やテーブルの高さなども、「オリエンタル」というキーワードにひもづけて選んでいます。アジアには畳や床に座る文化がありますよね。だから、床に近い、低い目線で過ごす要素を取り入れようと考えました。どのくらいの高さがベストなのかについても、たくさん議論しましたね。
ー訪れた人に、何を感じてほしいと思って空間をつくりましたか?
永井:いわゆる観光地っぽいエンターテインメントを楽しむ場所というよりも、自分と向き合い、そこで何かしらの価値を自分で見つけてもらえる空間であってほしい——それがこのホテルらしさになると考えました。静かに座ってお茶と和菓子を味わうこともそうですし、建物内から見える景色についても、どうすれば“気づき”を得てもらえるかを、渡部さんと現場で何度も話し合い、考え抜きました。大きい窓からただ景色を見せるのではなく、あえて窓を小さくして見える景色を絞る。そうすることで、切り取られた景色の美しさを見つけてもらえたらと思ったんです。
渡部:ホテルを拠点にあちこち散策するような従来の観光ホテルではなく、長く「おこもり」してもらうのが「KÚON 箱根強羅」の目指す姿です。知覚を通して、自分の中に新しい発見や“気づき”を得ていただき、ちょっと大人になったような体験をしてほしい。そのための工夫をたくさん散りばめています。

ー実際、お客さまの反応はいかがでしょうか?
渡部:「静かに過ごせた」とか「空間が洗練されている」といった感想をいただいています。20代~30代くらいのお客さまからは「ちょっと大人になった気がします」という狙い通りのコメントもいただいていて、うれしく思います。特にレストランは、入った瞬間にほとんどのお客さまが「おぉー」と声を上げていますね。
永井:うれしいですね。その反応、ぜひ生で見てみたいです。

箱根強羅という土地に、新しい人々を呼び寄せたい
ー今回のプロジェクトへの参画は、永井さんにとってどんな「挑戦」になりましたか?
永井:箱根強羅という伝統ある温泉地に、これまでと同じような価値観のホテルをつくっても意味がありません。例えば、何か商品を売る場所であれば、その商品のブランドや価値をどう表現するかを考えればいいけれど、ホテル自体のブランドや価値をどう創造するのかというところから一緒に考えさせていただいたことが、私にとっての「挑戦」でした。
ー「KÚON 箱根強羅」を、地域にどのような影響を及ぼすホテルにしていきたいですか?
渡部:これまで箱根強羅に訪れていなかった新たな顧客層を呼び込んで、良い影響を与えていきたいです。世界に誇れる温泉地になるためには、既存の層だけではなく、別のニーズを持った層が楽しめる場所である必要があるはずです。若い人、そして従来の温泉地の楽しみ方ではなく、自分と向き合い刺激を得たいと考えている人……。そういった新しい層を呼び込めるホテルでありたいですね。
ー永井さんは今後、どんな「挑戦」をしていきたいですか?
永井:ただおしゃれなものをつくる空間デザインではなく、より広義な意味で、まち全体に関わるようなデザインに「挑戦」していきたいですね。negu inc.では、事務所の1階で「nakaya」というポップアップスペースを運営しているのですが、今回のプロジェクトで取り組んだ、場所や空間の価値の創造は、そこで実験的に取り組んでいることと共通点があると考えています。nakayaは商店街の一角にあり、飲食や展示、販売など多目的に活用する中で、地域に新しい価値をつくっていこうとする場所。そこにどんな人が来て、その場にどう関わって、それが地域にどんなコミュニケーションを生み出していくのか。それを知りたくてやっています。
ー渡部さんは今後、「KÚON 箱根強羅」でどんな「挑戦」をしていきたいですか?
渡部:「挑戦」と言うと、大きな夢や目標を追いかけることを想像しますが、こうして新たなホテルが立ち上がったからこそ、地に足をつけなくてはいけないと思っています。来てくださるお客さまと対話をしながら、正しいマーケティングをして、正しいチームをつくって、正しく経営して、「KÚON 箱根強羅」をきちんと成り立たせることが何よりも重要です。
ホテルをつくることがゴールではなく、ホテルにたくさんのお客さまが来てくださって、ホテルとしての価値を証明していく。オープンハウスが初めて手がける直営ホテルとして、不動産としての価値が高い場所にしていく。それが「挑戦」だと思っています。

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